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    息子とキャッチボールをする

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    “LCBVILLE” Laika Came Back

    2023/09/08 19:00

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     カラ…ダ…ガ…オ…モ…イ… ウゴカ…ナ…イ… タ…ス…ケ…テ… 眠っていて稀にある金縛り状態。なんとか力を振り絞っておもいきって動こう!としたその時、「おとーさんやきゅーしよ!」という声ではっと目を覚ます。視界には、僕の腹筋の上にでんっと座る長男さん。金縛りの原因はいつも長男さん。時計を見ると朝6時を少しまわったところだ。

     

     長男さんは今、猛烈に野球にはまっている。幼稚園から帰ってくるとすぐに「おとーさんやきゅーしよ!」レコーディング作業やデスクワークなどをしていると「おとーさんやきゅーしよ!」夕食を食べて寝る前に「おとーさんやきゅーしよ!」。いつでもどこでも「やきゅーしよ!」である。野球「やろう」ではなく「しよう」なのはご愛嬌。少し前まではサッカーの方が好きだったが、OHTANISAN の大活躍ですっかり大谷翔平選手の大ファンとなり、野球のルールはまだいまひとつ理解していないものの、ここ1ヶ月ほどで急激にバッティングも投球も上手くなって、楽しくて仕方がないのだ。長女さんがあまりにも運動神経抜群な為、どうしても見劣りしてしまいがちなのだが、長男さんも運動神経は悪くない。バスケットボールも好きで、シュートがなかなか上手い。同じく大の大谷さんファンの長女さんも、一緒に楽しく「やきゅー」に参加する。この夏休みに、ふたりとも僕の親友から夏休みのお小遣いを頂き、そのお小遣いで、ずっと欲しかった念願のグローブを買った。最初は長男さんだけが買ったのだが、借りて使ってみた長女さんもとても欲しくなり、次の日の朝一番に買いに走った。エクササイズ好きな父としては、とにかくふたりとも体を動かすことが好きだということが嬉しい。

     

     僕も彼らと同じような年齢の頃、やはり野球が大好きになった。僕と同世代の男性なら、幼少の頃に男の子が最初に興味を持つスポーツといえば、まず野球があがると思う。お気に入りの球団の野球帽を買ってもらった喜びと言ったらとんでもないもので、夜眠る時も被って寝ていた。特に贔屓の球団はなかった、というか、幼児特有の移り気だったのだろう。一番最初に買ってもらった球団はなぜか覚えていないが、おそらく巨人だったような気がする。そして一番記憶に残る大切にしていた帽子は、白黒の阪神タイガースのものだった。そして西武ライオンズが誕生した時は、しっかりとライオンズの帽子を被っていた。

     

     ある時、長男さんとキャッチボールをしていて、ふと思った。「俺、いま自分の息子とキャッチボールをしてるぞ…」。あらためて向かいに立つ長男さんを見る。満面の笑顔でボールをキャッチし、キャッチ出来ずに顔面にボールをぶつけたりしている。汗で濡れた髪を乱して額にぺたりと貼り付けながら、僕の胸元に良い球を投げようと精一杯腕を振っている。たまにわざわざセットポジションに入って、ルールを知らないながらも見よう見まねで覚えた、ランナーを気にして牽制球を投げるかの如く、左右に一、二度首を振ってから、カッコつけて左足をちょこんと振り上げて投げる。その愛くるしい姿が、眩しすぎて霞んで見える。こちらも受け取ったボールに色々な思いをのせて、投げ返す。「お父さんとお母さんのところに生まれてきてくれて、本当にありがとう!」「元気に毎日楽しく、そのままの、ありのままの長男さんでいてくれるだけでいいぞ」「今のままの、心優しい男の子に育ってね。優しい男の子はモテると思うぞ」

     これまで特に何とも思っていなかったが、「息子とキャッチボールをする」ということが昭和世代の男の前に現実に起こると、何か過去も未来も現在もごちゃごちゃになった空間に放り出されたような、自分の年齢、というか自分の存在すら薄らぐ、異次元の世界に飛び込んだような気分になる。僕も小学生前後の頃、父がよくキャッチボールや野球遊びを一緒にしてくれた。少し左肩が傾ぐ父の投球姿が、鮮明に目蓋に浮かぶ。バッターとなって父が投げてくれるボールをひたすら打って、決めてあった一塁・二塁・三塁の場所を大きく内回りをしてベースなど踏まずにホームインし、大喜びしたあの時の自分と弟の姿。何とも言えない嬉しそうな父の表情。右端の少し大きな水たまりと左奥の雑草の茂み。その空き地の優しい土の匂いと、どこからか流れてくる、ご飯の準備をしているであろう、ふくよかな醤油の焦げた香り。その全てが、鮮明に蘇る。そして思う。俺、信じられないけど、やっぱり本当に父親なんだ。

     

     長男さんの野球熱の勢いそのままに、家族でヤクルト vs 広島戦を観に行った。その日は奇跡的に猛暑日から解放された夕方で、最高の野球観戦日和。初めての本当の野球場の迫力に、目を丸くする長男さんと長女さん。「むらかみさまどこー?」「ほら、あそこで練習してるよ!」家族揃ってフライドポテト大好き星人の我が家、しばらくすると長男さんも長女さんも暫し、ながーいポテトに夢中。球場で飲むビールは何でこんなに美味いんだろう。ちょっと高いけど。試合はヤクルトのワンサイドゲームで、終盤に、村上選手がちょこんと当てただけに見えたスイングでホームランを放つという流石の勇士も観戦出来て、初めての家族での野球観戦を大いに満喫した。帰り道、長男さん「次は大谷さんの試合を観に行こうね!」父「そうだね!……いつか必ず行こうね!」次の瞬間、銀行口座の現在の残高が、鮮明に目蓋に浮かんだ。たまに戦ぐ熱を帯びた風が、冷や汗を容赦なく撫でつけた。

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